北海道立文学館で開催されている赤羽末吉展をみてきました。「スーホと白い馬」で有名な絵本作家で多くの方は国語の教科書でご存知かもしれません。
国際アンデルセン賞画家賞を受賞した赤羽末吉とは
赤羽末吉は日本を代表する絵本作家の一人で、1910年に東京で生まれました。1932年、22歳の時に満州(現在の中国)に移住、終戦後の1947年に日本へ帰国。
中学卒業後に日本画家に入門したり、画才を見込まれて就職し宣伝用ポスターを描いたりしていた赤羽さんですが、本格的に絵本作家としてデビューしたのは50歳になってから。きっかけは絵本『セロひきのゴーシュ』(作:茂田井武)との出会いでした。
1980年には日本人初の国際アンデルセン賞画家賞を受賞するなど、精力的に絵本作家として活動を続けていましたが1990年に病気により没します。
展覧会の概要
会場:北海道立文学館
会期:2023年9月9日〜2023年11月7日
特別展
「スーホの白い馬」の画家赤羽末吉
赤羽末吉が満州から持ち帰った樹下美人図
終戦後に満州から引き上げる時に持ち帰ったという樹下美人図。この絵から「深く高く強くやさしく」という思いを感じた赤羽さんはこの思いを抱きながら絵を描こうと志したそうです。
「スーホの白い馬」絵本原画の複製
展覧会では精巧に複製された原画の写しが展示されていました。モンゴルへ取材した時の資料(写真や素描など)もあり、作品と比較しながら観ていくと、モンゴルの空気感をそのままに残しながら絵画として再構築されていることや、簡単に描いたように見える線と面で表現された絵には、高い技術力があることが見て取れます。
また素晴らしいのがその淡い濃淡で表される色彩表現。一枚ごとの場面から伝わってくる絵には観る側、読む側に訴える力があり、話を進めるために文章があるのではなく、絵の内容を最低限補うために文章があることがわかります。
赤羽末吉が絵本を制作する時に使った画材・愛用品の展示
赤羽さんが生前愛用していた画材などの展示もありました。水彩絵の具やパステルなど、色々な表現を試されていたことがわかります。カエルなどの生き物をモチーフとした文房具なども。
紙のサンプルも数多くあり、本の手触りなども含めて作品の表現ということに対して深く追求していたたのでしょう。
映像作品について
赤羽末吉の生涯を時系列的に流した映像作品でした。戦後立て続けに3人のお子様を亡くされた生涯だったそうですが、その悲しみはとても深いものだったのではないかと思います。
そんな悲しみを胸にいだきながら作られた作品はもしかしたら、天国にいるお子様たちの笑顔を思い浮かべながら作られたものかもしれません。
赤羽末吉が制作した絵本の展示
赤羽さんが絵本作家を目指したのは50歳になってからとのこと。
当初は民話などを中心に制作していた赤羽さんですが、晩年になるに連れて創作絵本に取り組まれるようになっていきます。
彼が晩年制作した絵本は、自由で伸びやかな発想が感じられて、これらの作品を読んだ時の子どもたちの笑い声が聞こえてきそうな作品です。
絵本の展示販売
赤羽さんの関わった絵本の展示販売がありました。
制作する時には紙の質にもこだわられたそうですが、絵本は持ったときの重みや感触が読みながら伝わってくるものです。
赤羽さんのメッセージが絵本を通して現代の私達や子どもたちに伝わっていることを思うと、絵本の力の素晴らしさを改めて感じることができました。
まとめ
文学館というと文章が主体の展示なのかと思っていましたが、絵画的に鑑賞する要素が大きく、どちらかといえば美術館的な展覧会だったように思います。
戦争を体験し幼い生命の火が目の前で消えていくという出来事を体験した赤羽さんだからこそ、絵本を通して多くのこどもたちへ本物の文化というものを伝えたいと「深く高く強くそしてやさしく」願っていたのかもしれません。
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