北海道博物館で2024年4月27日(土)から6月23日(日)まで開催している企画テーマ展「北海道樹木万華鏡 ―スキャンアートと標本で見る木々のかたち―」。
初めて耳にするスキャンアートという言葉。
博物館の企画展なので説明的になりがちな展示をイメージしていましたが、視覚で楽しめて樹木の魅力が最大限に引き出されたとても良い展覧会でした!
展覧会の展示概要
企画展は序章から始まり第1章から第3章まで4つの構成に分かれていました。
会場に入るとすぐに目に入るのがナナカマドのスキャンアート。
漆黒の背景から浮かび上がる赤い実や白い花はとても魅惑的です。
大きさを表す白い目盛線や植物の個々の名称の白い文字が絶妙なバランスで入れられているところがたまりません。
リアルな植物の画像とフォントとの対比がとても面白く感じます。
序章は植物の葉のかたちに注目するところから始まります。
葉のかたちに注目する 序 章
一口に葉と言ってもその形状は様々です。
- 葉の先は分かれているのか、分かれていないのか。
- 葉の先は尖っているのか、尖っていないのか。
- 葉脈は分かれているのか、分かれていないのか。
その他にもたくさんの違いがあることを気づかせてくれる序章。
植物がこれほどまでに個性的であることに改めて驚きます。
スキャンアートとは何かを知る 第1章
スキャンアートの制作者孫田敏氏は1954年生まれ、山形出身で札幌市在住の方です。
北大で林学を学ばれた後に林業や環境調査などに携わりながら、植物を美しくスキャンする技術を身に着けアートとして発表されるようになったそう。
スキャナーという「そのままものを写し取る」機械を使い表現するという点で、スキャンアートはカメラで撮る写真の表現に近いかもしれません。
カメラによる撮影作品が絵画で言うところの写実画だとすれば、スキャンアートはスーパーリアリズム=超写実画とでもいうのでしょうか。
スキャンアートは対象物をそのままに、より実態に近いかたちで表現することに重きをおいており、それがどれくらいの大きさであるのか、植物のどの部分なのかなどがわかるように文字や目盛線が描きこまれています。
この作風はとても科学的で、孫田さんが研究者だったからこその表現と言えます。
画面の構成は枠の中にモチーフであるモノとテキストをいかにバランスよく収めるか、という点でカメラより難易度が高く(と私は感じています)、カメラと似て非なる技術が必要になります。
最近ではSNSなどで画像に文字を挿入し表現することが多くみられますが、スキャンアートにもその要素があるのかもしれません。
このようにして制作されたスキャンアートですが、何が素晴らしいのか。
それは表現の精密さでもリアルさでもありません。
植物と称される生物の、わたしたちが日頃見過ごしてしまう命の輝きを捉えている点にあります。
冒頭のナナカマドしかり、その他の樹木しかり木と言えば茶色い幹と緑の葉しか通常の人は思いつかないでしょう。
しかし孫田さんの作品には樹木=植物の細部に渡る詳細な表情が捉えられていました。
それはわたしたちが知らなかった、気づかなかった、気づけなかった植物たちの姿です。
静かに佇んでいるだけではない生命の神秘がスキャンアートからは感じることができるのです。
腊葉標本(さくようひょうほん)とは何かを知る 第2章
腊葉標本とは研究調査のために作られた植物標本で押し葉、押し花とも呼ばれ新聞の間などに挟み水分をとった状態で保管される標本のこと。
状態によっては数十年から数百年も保存できることから植物を研究するための貴重な資料となります。
鑑賞用ではなく研究用なので植物の様子がわかるように果実や枝葉、花、根など一通り全体があるものが腊葉標本として作成されます。
研究用の標本ではありますが、制作者によって美しい標本というものも確かに存在します。
展覧会では研究用でありながらも美しい腊葉標本が展示してありました。
枯れてもなお大切に保管され研究資料として存在しつづける。
そこには植物を探求する人達の静かな深い愛情が感じられます。
化石標本とは何かを知る 第3章
化石標本は樹木が遠く遥か昔から姿をほぼ変えることなく地球に存在していたことを証明してくれます。
木が丸ごと全部化石になっていることは稀だそうですが、様々な形状の葉が一つの化石に集まっていることからは太古の昔に存在したであろう深く大きな森に想いをはせることができます。
展覧会には道内各地から出土した植物の化石が展示してありましたが、そこには1300万年前の文字が記載されていました。
展覧会の会場となっている北海道博物館の周囲も野幌森林公園の原始林に囲まれています。
変わらず存在し続ける森にわたしたち人間はどのように関わってきてどのように共存していくのか…
過去を振り返ることは、現在そして未来に目を向けることと同等に大切なことではないでしょうか。
展覧会の混雑状況
会期半ばを過ぎた日曜日、お昼前に訪れました。
常設展のついでに訪れる方でしょうか…数名の方がふらっと入られている感じでした。
私が行った直後には誰もいなかったのでキャプションを独り占めできて良かったです。
展覧会の所要時間
10分から15分くらいで見ることができます。
- 似たような植物を各章で見比べたりしてみる
- 序章で学んだ知識を以降の章で展開してみる
- 点在している椅子で会場の展示をゆっくり鑑賞してみる
- 順路とは反対にもう一度見てみる
- 自分だったらどのような植物をスキャンアートしてみたいか考えてみる
- 腊葉標本には難しそうな植物について考えてみる
私は1から4までのことを会場でしてみたので30分以上は滞在していました。
5と6に関しては会場外にいる今でも考えてみて楽しんでいます。
展覧会の入場料
無 料
※北海道博物館の常設展示室に行く際には別途入場料が必要です。
展覧会の会期&開館日・開館時間
会 期:2024(令和6)年4月27日(土)~6月23日(日)
9:30~16:30(4月)、9:30~17:00(5月~)
(入場は閉館の30分前まで)
展覧会の休館日
毎週月曜日(4月29日(月・祝)、5月6日(月・振)は開館)
4月30日(火)、5月7日(火)
アクセス&駐車場情報
〒004-0006 北海道札幌市厚別区厚別町小野幌53−2
TEL:011-898-0466
駐車可能台数:105台
身障者用駐車場:10台
利用時間:9:00~17:00
利用料金:無料
野幌森林公園内の駐車場が利用可能
周辺施設
- 野幌森林公園
- 野外博物館北海道開拓の村
まとめ
北海道博物館で開催された植物の展覧会「北海道樹木万華鏡」。
博物館は森林公園内にあるので森の中を進んで展覧会に行きました。
向かう時には「今日も緑がきれいだなぁ」くらいにしか思ってなかったのに、帰り道にそのまま森林公園を歩きたくなったのは私だけではないと思います。
森は美しい。緑はきれい。
アール・ヌーヴォーを代表するガラス作家エミール・ガレは植物学者でした。
彼の作品には植物や虫たちをモチーフとした作品が数多くあります。
ガレに限らず多くの芸術家が自然を観察するところから作品を作り上げていくことはよくあることです。
孫田さんの科学者としての知識と技術があったからこそ生まれたスキャンアート。
そのスーパーリアルな作品には自然の神秘を捉えようとするだけではなく、その美しさを愛おしむ感情が表現されています。
スキャンアートによる植物の美しさを感じられるのと同時に、植物の存在について想いを馳せてきた研究者の方の愛情をも感じることができた展覧会「北海道樹木万華鏡」。
みなさんも是非、本物のスキャンアートで今まで見たことのなかった植物の一面を知ってくださいね。
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