函館大沼に来たら、七飯町歴史館へ
札幌から函館へ向かう途中、大沼から車で20分ほどの場所に七飯町歴史館はあります。
歴史館の建物は高く聳える杉林や果樹園に囲まれて、植物の緑と建物の煉瓦色の対比が美しい場所にありました。
隣接する文化センターの上にはベンチがいくつか置かれていて、9時の開館までの間に少し時間があったので座って開館を待つことにしました。
早朝の木々の間でさえずる小鳥の声を聞きながら食べる、パンとコーヒーは格別に美味しく感じました。
この日は幸いにも学芸員さんに館内を案内してもらうことができ、そのおかげで歴史館を十二分に満喫することができました。
図書の貸し出しもある「町民の研究室」
歴史館は入り口から入って右側に「学習サービス室」があり、Wi-Fiだけではなくコピー機も設置されていて、静かに研究調査ができる環境があります。
コンセプトは「町民の研究室」だということですが、こんなに素敵な研究室が用意されてる七飯町民が羨ましい!町民になりたい!と、いつもの如く気分はすでに移住モードになりかけました。
空間を詰めすぎずに見やすく陳列されている本は、自然についてや歴史系のものが中心ですが、面白そうなタイトルの本が多く、貸し出しもしているそうで、思わず手に取りたくなるものが並んでいました。
大きな窓は外との隔たりを感じさせず、室内にいても「森」を感じることができます。壁面に設置されている本棚の下は引き出し型の標本ケースになっていて、町内で見ることのできる植物や昆虫の標本が並んでいて、町内で採取した植物や昆虫を自分で調べることができるようになっています。
棚に陳列された植物の実の標本も種類毎に瓶に入っていたり、白いキャンバスに飾られていたりと、展示というよりはおしゃれなカフェのディスプレイといった感じです。
博物館という固さを感じさせない、オブジェのような見せ方が素敵でした。
小さな発見があるロビー展
学習室の外側には小さくロビー展が開催されていて、訪れた時のテーマは「どうぶつの骨をみてみよう!」。
骨格標本と生きているときの標本の比較展示です。
エゾモモンガなどの羽根の先の様子など、骨になることで隠れていた部分がわかると、普段の様子と見比べて案外思い込みと実際の様子との違いが結構あるんだなぁと思いました。
ロビー展の向かい側には職員の方が撮った町内の写真が展示してあります。
身近な自然に対する眼差しが感じられる写真で見応えがありました。
職員の方は、この自然豊かな場所でいつも美しいものを見ているからなのか、写真がとても綺麗でした。
七飯町歴史館の常設展示室は見どころ満載
常設展示室、内容的には一年間でほぼ変わらないそうですが、七飯町は農業の町ということで、近世の農業について四季折々の様子の写真を壁の上部に掲げ、その下に関係する農具などを展示することで、視覚的に分かりやすくなっていました。
館の中心には昔の家が内部の細々した様子とともに再現されていて、季節の行事などに合わせた簡単な装飾がされるそう。
七飯町では遺跡の出土品も多く、土器や土偶の展示もありました。
学芸員さんは土偶を人形と呼んでいるそうで、そのお話を聞いた瞬間に遠い過去の人たちの営みが、とても身近に感じられたのは確かです。
器として使用されていたとみられる土器も色々な種類があることから、複数の調理法があったのではないか、彩色されることによって使われる用途は何だったのか、などのお話からは知らず知らずのうちに太古の暮らしが目の前に浮かんできます。
他にも近代の展示資料をもとに、幕末の同心たちの様子や、ドイツ人のガルトネルの作った循環式の西洋農法を用いた農園を明治新政府が買い取り(ガルトネル事件)、官園としてアメリカ式農業に転換、そこから道内の農業の方式がアメリカ式が普及していったという歴史などを解説していただきましたが、循環式農業が採用されていたらどんな農業、どんな北海道になっていたのか…。
実はあまり歴史が得意ではないのですが、学芸員さんの言葉によって、出土したモノから色々想像していく過程に、まるで推理小説を読み解く時のような楽しさを感じました。
官園では様々なものの試作が行われていたようで、果実や稲などの栽培だけでなく、缶詰の作り方、チーズの作り方など、現在の北海道の農業の礎が七飯にあったということを知ることができました。
因みに常設展示室には5羽の鳥の標本が室内のあちこちにあるとのお話でしたが、4羽までしか見つけられず…隠れたミニゲームです。
館内にはところどころに腰を下ろしてゆったり展示を見回せる椅子が置いてあり、落ち着いた音楽が流れていて、想像の世界を膨らませながら静かに時を感じることができました。
収蔵庫の中にあったもの
この時には特別に収蔵庫も見せていただきました。町内から集まってきたであろう様々な日用品や、多くの剥製標本。
昆虫の生体展示をするための飼育ケージなどもあったりして、収蔵庫ツアーは本当に面白い!
七飯町には全道で見られる約400種の鳥のうち半分の200種が見られるというようなお話も伺うことができ、鳥の標本を作成する時には、滑空する形での作成をして羽根の美しい模様を見れるようにするというお話や、ここでは書けない内緒の標本作成秘話などとっておきのお話も伺うことができました。
今後は、ゲームの企画展なども考えられているとのことで楽しみです。
歴史館の企画展示室
企画展示室はちょうど前回の企画展が終わったばかりで、お部屋の内部を見せていただくことが出来ました。
かなりの広さがあり、前回のテーマ展「自然ってなんだろう」の展示で使用されたパネルが置いてありましたので、数枚見せていただきました。
美しい写真と詩のような言葉の存在感は一つのアートワークになっていて、企画展が終わっていたのがとても悔やまれます。
企画展示室の前には、10年ほど前に水草の企画展をした時に、偶然水草についていた卵から孵ったという銀鮒が展示されていました。
とっても元気に泳ぐその姿からは、自然を大切にするこの館のみなさんの愛情が感じられました。
資料が収集保存される場所、技工室
最後は技工室も見させていただきました。
作成途中の植物標本や、砂の標本がありましたが、七飯町の自然の美しさが次はどのような形で私達の前に現れるのか。
学芸員さんの自然を思う気持ちがこの博物館の大事なところを担っているのだと思いました。
学芸員さんは、現在の七飯町の姿を保存していくことも博物館の役割であり、子どもたちが面白かったり不思議に思う気持ちをもつことが大事、とおっしゃっていましたが、環境や自然の大切さを「教える」のではなく、ここにくれば自然や歴史、文化に自然と触れられることで、それらを愛おしく思う気持ちを育むことができる素敵な館だなと思いました。
標本になる最中の淡い紫のシラネアオイの美しさが胸に残っています。
歴史館を訪れて
北海道林業の始まりが七飯町だったという事実は森が好きな私にとっては、大きな発見の一つでした。
学芸員さんが守ろうとしている町内の木々は、ずっと同じところから北海道の農業をみているはずで、館の周囲には小さな3つの野草園や森、ガルトネルのぶどうやニュートンのりんごの木もあり、私の大好きな場所のひとつになりました。
お土産に頂いた「大沼散歩手帳」は大沼の周辺を散歩するときのお供にと作成されていますが、大沼周辺ではなくとも普段の散歩に持ち歩きたくなるような、自然との関わり方が優しい言葉で綴られていて、一人の散歩でも誰かと歩いているような気持ちになれる一冊でした。
また是非訪れたい素敵な館です。
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